BS世界のドキュメンタリー『見えざる病原体』

NHK・BS世界のドキュメンタリー『見えざる病原体』

こんにちは。帰来堂鍼灸療院の坂光です。
2月6日にNHKBSで放送されたBS世界のドキュメンタリー『見えざる病原体』を観ました。
正直に言って、期待以上に面白い(と言っては語弊がある内容ですが)番組でした。

私はケニアでの医療ボランティアに関わるようになってから感染症の問題に意識的になりました。
アフリカでは感染症の問題が目に見えて深刻ですし、活動を通じて感染症専門医の先生方と親しくお付き合いする機会を得たということもあります。
ケニアでご一緒させて頂いた専門医の先生は、その後エボラ出血熱の対応のために西アフリカに派遣されました

番組によればエボラ出血熱の発生源はコウモリなのだそうです。
コウモリは元々森の奥に住んでいて、人間との接触はなかったのですが、過剰な森林伐採のために住むところを失ったコウモリは人里にやってきて、果物や農産物を食べるようになり、そこから感染が始まりました。
その意味で、エボラ出血熱は環境問題とも言えるということでした。

感染症は病原菌やウィルスだけの問題ではなく、人間の社会の変化が大きく影響するものなのでしょう。

番組の中で興味深かったのは人類学者のコメントで「感染症はうわさと似ている」というものでした。
うわさは古代からあるものだけど、現代ではインターネットやSNSがあるために、以前とは比較にならないほどの速さで広範囲に伝わるようになりました。

うわさは人々が明確な答えを求めている時に発生しやすいものだ、というコメントもありました。
確かにいわゆる”フェイクニュース”のような真偽のあやしい話がtwitterなどを通じて広がってしまうことはよくあることです。

そのうわさが後にデマであることが証明されても、多くの人はそのことを知らず、間違った情報を信じ続けるということもよくあります。この点も感染症と似ているかもしれませんね。
やっかいな時代になったものです。

東洋医学と感染症「風邪」

鍼灸・東洋医学には「風邪」という概念があります。”かぜ”ではなく”ふうじゃ”と読みます。
風がもたらす邪気ということで、現代で言う感染症と重なる概念です。

風とは東洋医学の病因の1つで、すなわち風邪。6つの病因の1つ。外から入ってくる病を先導する。
外から入る病の多くは風邪とそれ以外の病邪とが結合して発病に至る。(参考:新編簡明中医辞典)

風という漢字は凡と虫が組み合わされて出来ています。

凡は帆が風を受けて張っている様の象形です。

帆が風を受けている様子です。
この写真は田上造船様のサイトからお借りしました。

風は空気ですから目に見えませんが、物を動かす力があります。
その様子を字で表現しています。

虫とは、昆虫だけではなく、生き物全体を指しています。
従って風とは凡+虫で、生き物に影響を与える目に見えない力という意味を持ちます。

ちなみに感という漢字は咸+心で、咸には強い刺激を与えるという意味があります。

こうしたことからも東洋医学における風、風邪と現代でいう感染症との関係が見て取れることでしょう。

安全保障としての感染症対策

番組では、感染症のリスクが一般に考えている以上に大きいものだということが述べられていました。

感染症のパンデミック(世界的に流行し、死亡被害が著しくなること)が起きてしまうと、現代では何百万人もの犠牲者が出る可能性があり、それは感染症がもはや国家としての安全保障として取り組まなくてはならない課題であることを意味している。それなのに、感染症対策費は軍事費に比べるとごく少ない金額でしかない、という専門家のコメントがありました。

感染症の拡大を防ぐための公衆衛生対策には、人々の協力が必要ということもありました。
子どもに予防接種を受けさせるのは親であり、感染源を除くためにはその場所に入って活動することが必要だからです。
衛生対策には国民と政府との信頼関係が必要ですが、現代はその信頼が揺らいでいるということも言われていました。

エボラ出血熱のコウモリの例でもわかるように、感染症は医学にとどまらず人間社会の営み全体と関わっているということがよくわかりました。