先日コンビニでモーニングツーという漫画雑誌を買いました。
「荒呼吸」というエッセー漫画で鍼灸が紹介されていて、なかなか興味深かったからです。

「荒呼吸」とは松本英子さんというイラストレーターが連載しているエッセー漫画で

露出魔、膀胱炎、ネコ、稲荷神、パニック発作…扱う事象は変幻自在。達観してんだかドMだかよくわかんない、業深イラストレーターが綴る濃厚だけどノホホンな実録漫画。
http://www.e-1day.jp/morning2/manga/arakokyu.html

それで、松本さんがどうして鍼灸を受けることになったかというと

《前回までのあらすじ》
数年前、精神的に塞ぎがちだった作者はバイオリンを習いはじめ、やや気分が楽になる。同じ頃、以前から感じていた体の痛みが激しさを増していた。病院に 行くと、膠原病(こうげんびょう)の可能性があると言われる。大学病院での再検査の結果、リウマチ因子が高いが、まだリウマチや膠原病に「かかった」とは 言いきれないというものだった。痛みに波があり、ひどいときには動作の微調整も難しい。そんなある日、作者は雑誌の取材で都内の経絡治療院を訪れる。そこ は膠原病の治療も行っていた。(雑誌から転載というかこちらからコピペ)

ということのようです。
この漫画のことはこれまで全く知りませんでしたが、なかなかディープですね…

松本さん

松本さん

松本さんはリウマチの治療のために経絡治療院を訪れたのですが、鍼灸治療はリウマチに対して有効であることをWHO(世界保健機構)も認定しています。
鍼灸により自律神経のバランスを調えることによって治療効果をあげる、というものです。

経絡治療とは鍼灸の流派の一つです。
鍼灸の流派は大きく分けると中医学、経絡治療、科学派となります。
経絡治療は昭和の始めに日本で立ち上げられた流派で、日本の鍼灸の主流といっていいでしょう。
とはいえ、鍼灸治療はそれぞれの治療家がそれぞれのやり方をもっているといってもいいくらいで、こうしたジャンル分けにどの程度意味があるのかはわかりません。
漫画に出てくる治療院も経絡治療の典型とはとてもいえないように思えます。
ただ医学理論、治療の原則、整体観などは共通しています。あくまでやり方はさまざまだ、ということです。

経絡とは人体を流れる気の通路です。
気のネットワークといってもよいでしょう。
経絡は古代中国で考えられたものですが、現代の解剖学では解明されてはいません。神経、血管、リンパなどとは異なる概念です。
一般には目で見ることの出来ない経絡ですが、鍼灸治療はこの経絡のネットワークを使って治療効果をあげてきました。

経絡とは実は経脈と絡脈という二種類の脈の総称です。
そして経脈は内蔵と深い関連があり、気のメインネットワークといってよいでしょう。例えば胃に属する経脈は足の陽明胃経といい、肝臓に属する経脈は足の厥陰肝経と呼んだりします。

ツボという言い方がありますね。
頭痛のツボ、とか胃のツボとか。

ツボのうち経脈上にあって特定の経脈に属しているツボを経穴といいます。
経穴以外にも色々な種類があるのです。

経穴をつかって治療をするということは、そのツボ独自の効果を期待することもありますが、同時にそのツボが所属する経脈に刺激をするということです。
そしてその経脈の流れがよくなることで、全身の気の流れが調い、治療効果をあげることができるというのが鍼灸の効用の一つです。

この経絡というのは東洋医学独特の概念、考え方であって、私たち鍼灸師はとても大事にしています。
鍼灸とは経絡の流れを調えることによって治療するものなのです。そのために色んなやり方をそれぞれに行います。
さらにいえば「流れがよくなる」ことが健康につながる、というのはバランスを重視した東洋思想を象徴するような考え方です。

漫画に出てくる治療院での治療もとてもソフトで、松本さんはとても快い気持ちで(ビールをいっぱい引っ掛けて)帰ります。
リウマチの痛みに対して強く働きかけていたわけでもなさそうなのに、翌朝にはこわばりもなくすっと起きることが出来て驚いています。
こうしたバランスを取ることで結果的に症状をのぞくというのが鍼灸の効用なんですね。

昭和の始めに日本の鍼灸師が「経絡治療」という一派を立ち上げました。
鍼灸の古典を重視した、鍼灸医学本来の道を取り戻そうという運動です。
一派の名前を議論しているときに「経絡的治療」というのはどうか、となったそうです。
そのとき指導的立場にあった人の一人が「『的』なんてつけてはだめだ。我々は経絡に治療するんだから「経絡治療」でいいんだ。『的』を取ろう」と発言して「経絡治療」になったそうです。
「経絡的治療」と「経絡治療」では表わしているものがずいぶん違います。
私はこの逸話が好きです。