『字統』白川静

横山瑞生先生から学んだこと

私は鍼灸学校3年生の時から、横山瑞生先生に師事していました。
横山先生は東京四谷で一本堂鍼灸療院を主宰されていた方です。

帰来堂鍼灸療院を2000年に開業してからも、毎月新幹線で名古屋から上京し、勉強会を開催していました。
その勉強会では、毎回私がレジメを準備していました。
私が出席者に勉強してきたことを発表し、横山先生がそれにコメントを加えるという形でした。
毎月講習会の準備をするのは結構大変でしたが、一番勉強が身についたのは発表をする私自身であったと思っています。

レジメを準備するために、時間をかけて辞書や鍼灸の古典を調べました。
今はインターネットで何でも瞬時に簡単に検索できますが、手を使って調べたことはしっかり頭に入るものです。

一本堂での勉強会の日々が私の基礎を築いてくれました。

漢字と東洋医学

横山先生は漢字にこだわって勉強していた方です。

それぞれの漢字には元の形や成り立ちの経緯があり、音や形を通じて他の字と字義を共有しています。
漢字には古代中国の思想が反映されていて、それは鍼灸・東洋医学にも深く関わっているのです。

上の写真は白川静先生の『字統』

一本堂勉強会のレジメには、この『字統』や藤堂明保先生の『漢和大字典』から多く引用していました。

横山先生はお酒が好きな方でしたので、毎回夜はお酒を頂くのですが、その時も膝に辞書を置いておいて、先生のお話をお聞きしながら辞書を引いていたものです。

交信というツボ

交信というツボがあります。
腎経に属していて、足の内くるぶしの上にあります。

交信は月経不順のツボです。
「信」には「時間を守る」という意味があり、交信には月経を正常にし、時間通りに来経させる効があるので、この名がつけられました。(参照:「針灸経穴辞典」東洋学術出版社

ある時、私は一本堂での研修に遅刻をしてしまったのですが、その時に横山先生がこの交信のお話をされました。
私が「信夫」という名前であることをよくわかった上で、「時を約すを信と為す、と言うのですよ。」と穏やかに諭されました。

その時のことは今もありありと覚えております。

信:言にして信ならざれば、何を以てか言うと為さん

最近ちょっと必要があって、久しぶりに『字統』で「信」を引いてみました。

『論語』では「信」の重要性を強調している、とあります。

「信なくば立たず」という言葉はよく知られていますが、政治家の三木武夫氏の座右の銘だそうです。

「信なくば立たず(無信不立)」は「政治にとって最も大切なことは何か」と弟子に聞かれた孔子が「軍備を整えるのでもなく、食糧を満足させることでもなく、人々が政治に信をおくようでなければならない」と答えたとされる故事の解釈から。小泉純一郎元首相、安倍晋三首相らも好んで使う。
三木武夫「信なくば立たず」 : ライフ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

『字統』でもこの故事が紹介されていて、白川静先生は
大ていの政治は、これを倒逆した形で行われている。
と、この稿を締めくくっていらっしゃいます。

字典なのにこんなことが書いてあるのです。
面白いですね。