映画『ニーゼと光のアトリエ』@名古屋シネマテーク

こんにちは。帰来堂鍼灸療院の坂光です。

ブラジルの映画『ニーゼと光のアトリエ』を観てきました。

ショック療法が当たり前とされ、精神病院が患者を人間扱いしていなかった時代を背景に、画期的な改革に挑んだ女性精神科医ニーゼの苦闘を描いたブラジル映画。1940年代のブラジル。精神病院で働くことになった医師のニーゼは、患者に対するショック療法など、暴力的な治療が日常茶飯事になっている現実を目の当たりにし、衝撃を受ける。男性医師ばかりの病院で身の置き場も少ないニーゼだったが、患者を病院の支配から解放するため、患者たちに絵の具と筆を与え、心を自由に表現する場を与えようと試みる。主人公ニーゼ役は、ブラジルの名女優グロリア・ピレス。監督はドキュメンタリー出身のホベルト・ベリネール。2015年・第28回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、最高賞の東京グランプリと最優秀女優賞を受賞した(映画祭上映時タイトル「ニーゼ」)。映画.comより)

オープニングが印象的。
主人公が鉄の扉をノックするが、誰も出てこない。ガンガンガンガンと何度も強く叩いてやっと中に入れてもらえる。

病院ではちょうど医師の会議が開催されていて、ロボトミー電気ショックが画期的な治療として紹介され、ショックを受ける主人公。
ロボトミーを考案した医師はノーベル賞を受けているとのこと。
多くの人は、映画の最初にこのショッキングなシーンを観て、精神科の野蛮で非人間的な治療に嫌悪感を抱くことでしょう。

精神科の歴史に差別や非人道的な側面があったことは広く知られていることですが、この映画のテーマはロボトミーや電気ショックを批判することよりも、主人公のニーザが、1940年代の女性という立場でいかに自らの信じる道を進んでいったかを描いた映画だと思いました。

冒頭の会議で、出席者の中で女性はニーザ1人。白衣を着た男性医師の中で、赤いスーツを着けた主人公はとても目立って、明らかに異分子です。

ニーゼの人間的な治療が効果を上げ、アートセラピーによって患者の状態が改善していく様子を観るととてもいい気分になります。
明らかによくなっているのに、それを医療と認めない男性医師。ニーゼも負けずに切り返すのが痛快です。
前にこのブログに書きましたが、嫉妬という字には女が含まれていますが、嫉妬するのは女性とは限りません。

当時のブラジルの政治状況もさりげなく挿入されていて、ニーゼは「共産主義者の悪い癖だ。自分の野心を人道主義でくるんでごまかす。」などと言われてしまいます。ニーゼは実際に共産党のパーティーに出たことで2年間投獄された経験があるのだそうです。(パーティーに出ただけで逮捕投獄。そんな社会はもう2度とごめんですね。)

独裁政権下の1940年代のブラジルで女性として、医師とはいえ精神科という場で自らの信念に従って生きるのはどれほど困難であったことでしょう。

この映画は企画されてから完成までに13年もかかったそうです。
実在のニーゼの長い人生を、ペドロ2世病院に戻ってきてからしばらくの短い時期を描くことで、彼女の生き方全体を表現し、現代に生きる私たちに強いメッセージを送ることに成功している映画だと思いました。