映画『この世界の片隅に』がロングランヒット中です。
この映画は製作費をクラウドファンディングで集め、最初は小規模な公開で始まったそうですが、芸能界的な事情でテレビなどでの宣伝も少ないのにもかかわらず、口コミでその素晴らしさが広まり、こうして大ヒットしています。何やら痛快な話です。

私はアニメ映画は苦手で、この映画を観る気はあまりありませんでしたが、同級生の友人が「ガン泣き…素晴らしいい映画でした。広島の方、呉の方、マストでご覧ください」と書いたのを読み、やはり観ないといけないかと考え直しました。

ホロコーストやナチスの映画をよく見ます。先日も「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」を観ました。
きちんと知っておくべき歴史だからという気持ちもありますが、映画としてよく出来ている作品も多いし、なにより映画の題材としてこの上なく魅力的だから観ているということも実はあるような気がします。不謹慎なことです。

でも勝手な話ですが、原爆の映画は恐いのです。
私は昭和40年に広島に生まれ、幼稚園から平和教育を受けて育ちました。

友人は映画について、舞台である呉に彼の実家があり、のんさんの広島弁がほぼ完璧であることだけ書いていました。
彼が何に涙を流したのか、どんな気持ちがしたのか詳しく聞いてみたいですが、実際に会ったら聞かないだろうと思います。そういうものだという気がいたします。

先日ある会合でこの映画の話になり、皆さんが感想を述べ、私にも広島出身者としての感想を求められましたが、殆ど何も言えませんでした。名古屋の皆さんに私の思っていることをお分かり頂けるかどうかわかりませんでしたし、お酒の席を白けさせてしまう気がしました。

感想を書いているブログには「ほのぼのとした」などという表現もありました。
確かに主人公はいい感じで”ゆるい”女性です。
でも映画は最初から最後まで一貫して原子爆弾が影を落としています。主人公たちが毎日の生活を平然と送ることを続けているからこそ、それだけ原爆の影を強く感じさせられます。それだけ当時の状況をリアルに描いているということではないでしょうか。私たちは昭和20年8月6日の朝に何があったか知っていますが、当時の人たちはその時まで知らなかったのですから。

最も戦慄させられたのは、最初の方で買い物に行く場面。私は予備知識なしに映画を観ましたが、あの町は焼失し平和記念公園になった場所だとすぐにわかりました。
その後のシーンで、すずと周作がさらわれそうになる場面では、確か産業奨励館が描かれていましたから、その場所が原爆投下の標的となった相生橋であることは伝わったでしょうか。

広島出身の方の出張治療をしていたことがあります。
その方のご実家は、現在の平和記念公園のある場所にあり、そこに住んでいらしたご親戚の方が亡くなったというお話を伺いました。
戦後生まれの私にとっては、あの場所は生まれた時から公園でした。でも原爆が落とされる前は広島市の中心街であり、人が住む町だったのです。