帰来堂鍼灸療院の坂光です。

鍼灸・東洋医学では「虚」「実」という言葉をよく使います。

鍼灸は鍼と灸を用いた刺激療法で、気に働きかけて全体のバランスを取ることで心身の不調を改善しようとする治療法です。
鍼灸には「虚する時はその母を補う。実する時はその子を瀉す。」という治療原則があります。例えば、元氣がなく氣が不足している時は「虚」と考え、不足を補って氣を増やしたり、よく巡るようにしたりします。氣が滞っているような時は「実」と捉えて余分な氣を流すようにします。こんな感じで、身体が虚なのか実なのかを診て、治療方針を決めます。

「虚」とは「くぼんで、中が空いているさま」、転じて「中身がなくうつろであるさま」の意です。東洋医学の場合は「氣がなくなってうつろなさま」ということですね。
漢字としては下の部分が「丘」の原字で、「両側におかがあり、中央にくぼんだ空き地があるさま」です。上の部分(とらがしら)は音符で、意味とは関係がありません。

「実」は古くは「實」(うかんむりに貫)と書きました。下に貝(財宝)があり、家の中に財宝をいっぱい満たす意を示します。
「実」という字は、「充実」とか「実りのある」とか良い意味で使われることが多いですが、鍼灸医学においては気が循環することが大切であるという考えから、いっぱいである=詰まっている、滞っているという捉え方をします。

「嘘」という字は「口」(くちへん)に「虚」です。
漢字としては「ふうと静かに息を出す」という意味になります。荘子に「仰天而嘘」という言葉があり、静かに息をつくことです。動詞では「うそぶく」と読み、ため息をつくことなのだそうです。この場合、口から息をはくわけですが、「口」は出入りのできる穴という意味で用いられることが多いので、肺に溜まった(実ですね)を静かにはいて虚の状態になること、ということなのでしょう。虚になると再び息をいれることができます。

この字を「うそ」として用いるのは我が国の用法だとのことです。
この場合は「虚」(実体のないこと)を口にするという意味ですね。
やると言ってやらないとか、好きでもないくせに「愛している」というとか。

AであるのにBというような場合は「偽」(いつわり)でしょうか。
字典によればこちらは「うわべを取り繕う」という意味だとあります。本来のものを違ったようにするということのようです。

うそにも色々ありますが、「嘘も方便」などと言いますが、やはり嫌なものです。
「嘘も100回言えば真実になる」などというのは恐ろしいことです。
自分にも相手にも正直に生きられるのが幸せなのだと思います。

参照:学研漢和大字典(藤堂明保編)

イギリスのバンドGang of Fourの1stアルバム。嘘を激しく糾弾しています。