東洋医学のルーツは中国古代哲学

東洋医学は陰陽五行論に基づいた医学です。
陰陽五行論とは陰陽論と五行論という中国古代の二つの思想が結びついたもので、
陰陽は物事を陰と陽の二面からとらえる考え方。五行論は木・火・土・金・水の五つの要素に分類する考え方です。
陰陽も、五行もそれぞれの要素が単独で存在しているわけではなくお互いに密接に関わりあっています。

陰陽五行論は元は暦法(こよみ、天文学)でした。
農業を主たる産業とする国家において、気候の移り変わりを知ることは死活問題です。
古代の人々が天候を予測するためにどれほど苦労したか、想像に難くありません。

さて陰陽五行論は天文学であると同時に哲学・物理学であり政治・軍事にも用いられました。「孫子の兵法」や「易」は陰陽五行論と深く関わっています。
つまり古代中国においてはすべての学理の源だったのです。
したがって医学にも陰陽五行論が用いられるのは当然のことだったことでしょう。


今、BSフジで『善徳女王』という韓国ドラマをやっているのですが、その中で「サダハムの梅」という貴重なものが商団によってもたらされるというエピソードがあり、その「サダハムの梅」とは実は中国の暦である「大明暦」なのです。

ドラマの中でも、「大明暦」は最重要国家機密だ、ということも語られていて、古代において暦がいかに重視されていたかがよくわかり、とても興味深いものです。

陰陽

陰陽の分類についてはよく知られています。

昼が陽で夜が陰。
夏が陽で冬が陰。
子供が陽で老人は陰。
というように分けられます。

人体においては
上半身が陽で下半身が陰。
手足が陽で体幹が陰。
体表が陽で体内が陰。
五臓六腑では臓が陰で腑が陽。

ちなみに男性が陽で女性が陰であるのは、男女の最大の違い、すなわち生殖器の形状による分類です。
外は陽で内は陰ですので、子宮がお腹の中にある女性が陰に配当されているのです。

五行

五行の分類で代表的といえるのは季節と方角でしょう。
季節については春夏秋冬と土用、方角については東西南北と中央を
木・火・土・金・水に配当しています。

一応書いておくと、
木は季節は春、方角は東
火は季節は夏、方角は南
土は季節は土用(長夏)、方角は中央
金は季節は秋、方角は西
水は季節は冬、方角は北
となります。

なぜこのような配当になるのかを説明すると長くなりすぎてしまいますが、
これはなかなかに奥の深い学問ですので、また稿を改めて取り上げたいと思います。

五行論は医学に取り入れられ、身体の様々な部分に木・火・土・金・水が割り当てられていますが、
一番重要なのは五臓六腑の配当でしょう。

木は肝臓と胆のう
火は心臓と小腸
土は胃と脾
金は肺と大腸
水は腎臓と膀胱
とされています。

陰陽と五行のバランス

陰陽も五行のそれぞれも単独では存在できません。
陰陽五行論の思想ではこの世に無駄なものは何一つなく、すべては何らかの形で陰陽と五行に配当され
役割をもっているとされています。

王羲之の「蘭亭序」にある『仰いでは宇宙の大なるを観、俯しては品類の盛んなるを察す。』という言葉は
宇宙の万物、生命の多様性のすばらしさを述べた一節ですが、上述の陰陽論の思想を背景としている
のだそうです。

したがって人間の身体においても無駄なものは何一つないということになります。

東洋医学において、病とは陰陽や五行の過剰あるいは不足によるバランスの崩れた状態だと考えられています。
その治療は、過剰や不足に対応してバランスを取り戻すこと。
バランスを取り戻して、自然に沿って生活をすれば健康を回復できる。
これが東洋医学のバランス重視の思想です。