『黄帝内経』という中国古代の医学書があります。
前漢の時代に編纂されたとされています。前漢とは紀元前208年~紀元後8年ですので、2000年以上前ということです。
この2000年以上前の医学理論が現代の鍼灸医学の基礎となっているのです。

『黄帝内経』は全部で18巻あり、『素問』9巻、『霊枢』9巻に分けられています。
『霊枢』は別名『鍼経』とも呼ばれていて、鍼の具体的な用法に対する言及が多いのが特徴です。
(ちなみに黄帝とは中国古代の伝説的な皇帝の名前で、ユンケル黄帝液の由来でもあります。)

その『霊枢』の第八篇に『本神篇』という文章があり、最初にこうかいてあります。

凡刺之法、先必本于神。
およそ針を刺すときには、まず必ず“神”を根本において治療をする。

血脈営気精神、此五蔵之所蔵也。
血、脈、営、気、精、神、これらは五臓の中に収められているものだ。

ここでいう“神”とは、簡単にいうと精神状態ということです。
“血、脈、営、気、精”については、それぞれの定義、解釈がありますけれど、総じて言えば身体を巡り生命力の源となるもの、という言い方ができると思います。

東洋医学は陰陽五行論を基に医学理論に発展させたものです。
人間の身体の中では五臓、すなわち肝心脾肺腎の五つの臓が最も大切であると考えています。
その五臓の中に収められているのが”血、脈、営、気、精、神”といわれるものであり、その中でも特に“神”を根本におかなくてはならないと述べているのです。

五行論とは万物は木、火、土、金、水の五つの性質に分けられるという古代中国の世界観です。
五臓とは肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓の五つ。
肝臓は木の性質を持つとされています。同様に心臓は火、脾臓は土、肺は金、腎臓は水が配当されています。

情動についても同様で、怒は木、喜は火、思は土、憂悲は金、恐驚は水になります。

わかりやすくいいますと、以下のようになります。

  • 怒り、つまり“かりかりする”のは肝臓の毒出し。
  • 喜び、“つんつんする”のは心臓の毒出し。
  • 思い、“くよくよする”のは脾臓(消化器)の毒出し。
  • 憂いと悲しみ、“めそめそする”のは肺の毒出し。
  • 恐れと驚き、”びくびくする”のは腎臓の毒出し。

例えば、肝臓が悪いとかりかりして、すぐに怒るというわけです。
逆に傲慢な性格でなんでも思い通りにならないと気がすまない人は肝臓が悪くなる、ということがあります。

また肺が悪いとめそめそして悲観的になりますが、逆に辛く悲しい体験が肺を悪くさせるということもあります。

このように身体の状態と心の有り様が相関していると考えられています。

鍼灸院では肩こりや腰痛の方が多くいらっしゃいますが、そうした患者さんの多くがストレスを抱えています。
ストレスがその他の生活習慣などと相俟って、それぞれのタイプの痛みとして表面化するのです。
また疲れやすさ、不眠、生理不順、アレルギー、不安感などさまざまな心と身体のアンバランス、自律神経の失調による疾患で悩んでらっしゃる方も多いです。

鍼灸医学は、心身一如、精神状態と健康との関連をとても重視して多くの疾患に対応しています。