扁鵲が鍼治療をしている様子。

扁鵲が鍼治療をしている様子。

鍼灸の免許を取ったばかりのころ、「中国医学はいかにつくられたか」という新書を読みました。
古代の中国において医学がどのように発展してきたのかを解き明かそうというもので、大変興味深い本です。

その中で特に印象に残っているのが「六不治」の話です。

六不治とは古代中国の名医である扁鵲(へんじゃく)が唱えたとされ、司馬遷の著した「扁鵲伝」に載っています。

その具体的内容は以下の通りです。

病に六つの不治あり(病気が治らない理由に六つある)司馬遷・史記別巻

  • 驕恣理を論ぜざるは、一の不治なり <患者がわがまま>
  • 身を軽んじ財を重んずるは、二の不治なり <身体を軽んじお金を大切にする>
  • 衣食適する能わざるは、三の不治なり <衣食が病気にふさわしくない>
  • 陰陽并背、臓気定まらざるは、四の不治なり <陰陽の調和がくずれて臓気が定まらない>
  • 形つかれて服薬能わざるは、五の不治なり <体が衰弱して薬をのむことができない>
  • 巫を信じ医を信ぜざるは、六の不治なり <宗教を信じ医学を信じない>

以上「難病ドットコム」より(http://jpma-nanbyou.com/index.aspx)

いかがですか?現代でも通用しそうな至言ではありませんか。
当時私が最も強い印象を受けたのが「第六の不治:巫を信じて医を信じざるは不治なり」というくだりです。
「中国医学はいかにつくられたか」には六不治について以下のように書かれています。

六不治はふつう扁鵲の説と理解されている。しかし(中略)それは前漢の半ばごろまでに医師たちがつくりあげていた格率にちがいなく、司馬遷がそれをここに採録したのである。六不治には前漢前半期における医学の時代精神とでもいうべきものが表明されている。

鍼灸の古典『黄帝内経』もやはり前漢に編纂されたと言われています。
『黄帝内経』に詳述されている陰陽五行論、蔵象学、経絡学説は現代に至るまで鍼灸医学の基礎として生きています。

一方、古代においては、病とは鬼神のもたらす災いであるとされ、それを祓うことが治療でした。
まだまだそうした呪術的な医療が力を持っていた時代に、「巫を信じて、医を信ぜざるは不治」と述べているのです。

『黄帝内経』で表明しているの医学理論こそが最先端の医学理論であると高らかに宣言した、そんな時代の精神の表れが『六不治』には感ぜられます。